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EP2 冥界Halloween Night!

原案:白上 フブキ 執筆:茅埜 仁子

冥界。
そこは一度取り込まれれば二度と戻れない、不帰の世界。
生者からは忌み嫌われ、おどろおどろしく描かれることが多い。薄暗く、ジメジメしていて、荒れ果てた土地が広がっている。おおよそそんなイメージだろう。

「ハロウィンだ!」
「パーティーだぁ!」
『俺たちの季節だー!!』

ここは冥界を統べる女王の城。パーティーホール。ドーム状の天井には美しい夜空が描かれている。屋根を支えるはりにすら星が描かれ、それを透き通るような透明感をたたえた何本もの石柱が支えていた。
屋根の頂点にして中心には調光・換気用の窓があり、そこから降り注ぐ光は円状のホールの中心を淡くスポットライトのように照らしだす。濃紺の床にはよく見れば細かなガラスがちりばめられていて、わずかな光をよく反射してキラキラと瞬いている。
中心を囲むように小さなテーブルやスタンドライトがシンメトリーに配置され、洗練された可憐なパーティー会場に仕上がっていた。

が、冥界の住人といえどもともと生者の世界に暮らしていた、ただの人。パーティーと聞けば浮かれ騒ぎたくなるものなのである。準備もそこそこに遊び出してしまうさまは、死者も生者も、なんなら大人も子供もあまり変わらないのだ。
「パーティーが始まれば、ご馳走や甘いものがうんとこのテーブルに並ぶんだよなぁ」
「俺はシュークリームタワーが一番好きだ!」
「おい、誰かスケルトンのやつに骨だけでどうやって食うんだってツッコめよ!」
骨だけのスケルトンすこん部がえぇ〜と不満そうな声を漏らす。ツギハギだらけのすこん部はそんなツッコミも聞こえていないのかのんびりと妄想にふけっている。全身包帯を巻いたミイラのすこん部はイライラとした口調で叫んだ。
「そんな食い気ばかりじゃ生者になめられるだろ!もっとオバケらしく怖カッコよくしろ!」
「“こわかっこよく”ってどんなのなのぉ?」
ツギハギすこん部が尋ねると、ミイラすこん部はちらりと覗く自身の瞳を隠しながらこう言った。
「フッ……俺たちは怖がられ恐れられる存在……、けれど尊敬もされるように日々かっこよく見える技を磨くのだ。……我が右目を見よ!」
バッと勢いよくあらわにされた瞳は赤い閃光を放つ。
「すげぇー!かっくいいぃー!」
「俺目ないんだけど、どうすればいいんだ?」
ワイワイと騒ぐ三人を、牙を持ちマントを羽織ったすこん部が仰々しい口調で咎めた。
「やかましい。一発芸なんぞで騒ぐでないわ」
「一発芸だと!我が右目にはこの冥界に蔓延る三千年分の怨念が封印されているんだぞ!この光はその証だ!」
「冥界に来て魂だけになった我々は魔力を扱いやすくなるのだ。それぐらい、頑張れば誰にでもできるものよ」
「ホントだ!目玉がなくても光る!」
「えぇ?じゃあさん…なんとかのおんねんは?」
何かの警報機のようにオレンジ色の光を目の穴からチカチカと点滅させるスケルトンを一見して彼は続ける。
「そもそも、貴様はまだこちらへ来て数年ではないか」
「ぐぬぬ……」
「そういうものはこの私のように長年女王にお仕えしてから言うのだな!」
彼はバサァと自慢げにマントを広げる。
「我こそは女王の腹心!貴様らなんぞとは年季が違うのだ。この冥界の大貴族といっても過言では……」

「その長年私に仕える腹心たるあなたにはおサボりたちの監督を任せたと思うのだけれど?」

ピリッと空気が張り詰める。

静かな、けれどしっかりとした威圧感がしっとりと冷気をまとった霧のように床を伝ってホール全体に広がる。ワチャワチャと騒いでいたすこん部は黙り込んで気配の主を見上げる。
力の主、この地の支配者。冥界の女王、その御姿を。
長い白髪をツーサイドアップに整え、猫耳のような不思議な形のベールを被っている。比較的短めの漆黒のドレスはところどころが裂けていた。
「これはこれは、我らが女王陛下。申し訳ありませぬ、若い者を前に少々調子に乗りすぎましたな」
長年仕えているというだけはある。マントの彼は重々しい空気の中、するすると雄弁に言葉を紡いだ。
彼女は結った片方の髪をいじりながら、ふわふわと浮かんだままホールの中心から声の主を見やる。真っ赤な彼女の瞳には、黄金に輝く美しい虹彩が宿っていた。
「大体、冥界に爵位なんてないのだけれど」
“若いものたち”はジロリと横目でマントの彼を睨む。
しかし、彼はそんな視線も涼しげに受け流す。
「近々新設なされても良いかもしれませんな。その際はぜひ私に……」
「それ以上無駄口を叩けば舌を引っこ抜いてしまうわよ」
さすがにそこまで言われてしまえば黙るしかない。口を閉じてわざとらしく頭を下げる彼に女王はため息を一つついた。
「全く、これだけの人数がいて、まだこの程度しか終わっていないのかしら」
掃除とテーブルセッティングはあらかた終わっているようだが、会場の飾り付けはといえばまだまだからっきしだった。
「ゴーストはここに配置するべきだったわ」
誰に言うでもない一言がなんとなく気まずい雰囲気を作る。
「とにかく、明日は大事な日なのだから、早急に支度を整えなさい!」
『かしこまりました!女王陛下!』
彼女の号令で、一斉にテキパキと動き出す。先程までの脱線はなんだったのか、ホール内が黒、オレンジ、紫とハロウィンらしい装飾に染まっていく。
「全く、やればできるのにどうして言われないとできないのかしら?」
それを確認した女王はふわりと方向を転換すると、自室へ向けてゆったりと飛び去っていった。

「危なかったな、女王陛下の機嫌が悪ければ本当に舌を抜かれていたかもしれん」
「お前は抜かれてもいい」
「俺元から舌ないけどな!」
「かぼちゃ、おいしそう」


「もう!ちっとも準備が終わらないじゃない!」
ちくちくとぬいぐるみらしきものを縫い上げながら、女王は声を荒げる。
「ハロウィンが待ち遠しいのはわかるわよ。冥界はジメッとしていて暗いもの」
ふと手を止める。
「明るく艶やかな地上が恋しいのは皆同じ……けれど、この地はその地上へもう一度生まれ戻るために魂を休める場所……」
目を細め、天井を、更にその上の空を見上げる。
「少しだけ、気に入らないわ」
魂とは簡単に言ってしまえばその人の核であり、魔力の源でもある。つまり魔力の塊と解釈できるのだ。
もともと膨大な魔力が埋蔵されるこの地に魂が惹きつけられるのは必然。
肉体を持たない魂は外部からの変化にも、内部からの変化にも弱い。魔力があふれるこの地で肉体のない魂が壊れずに存在できているのは、紛れもなく女王である彼女の繊細な力の調整によるものだ。

それもこれも、この地を恐ろしい無の大地ではなく“安らぎの場所、未来をつなげる場所にしたい”と願った少女の願いに答えた結果ではあるのだが。

「ま、いいのだけれど」
それを良しとしていそいそとパーティーの準備をしているのは自分なのだ。だからこれはただの愚痴。本心から気に入らないなんて思ってなどいない。羨ましいという感情を怒りに変換しただけ。
「できた!」
布をつぎはぎした人形。少し不気味な風体の人形を一撫でして、指を振る。すると、部屋の中に小さな人だまが現れた。
「ほら、あなたが最後。待たせて悪かったわね」
人だまはくるんっとその場で宙返りをすると、吸い込まれるように人形の中へ入っていく。女王が床に人形を置くと、人形はひとりでに動き出す。
人形はぎこちない動きで立ち上がる。腕を振ったり跳びはねたりして、新しい体の調子を確かめているようだ。
「どう?変な感じはしないかしら」
女王が尋ねると、人形は彼女を見あげてこっくりと頷いた。
「あら、声が出ないの?」
人形は問題ないというように腕を振る。
「そう?それならいいのだけれど」
物質と魔力は重なり合って同じ場所に存在しているが、言うなれば次元が違う。何もせずとも干渉しあうが、同じ次元同士のものに比べればその度合いはわずかだ。同じぐらい干渉しようとすれば数倍という大きな力が必要となる。
そのため、物理現象に干渉しようと思うと、肉体がある方が都合がいいのだ。
彼女が用意していたのはそのための器。彼女は毎年新しくやってきた死者のための体をハロウィンに合わせて全員分用意してやる。
人形はぺこりと頭を下げる。
「いいのよ、お礼なんて。これも盟約の一つなんだから」
地上では「ハロウィンパーティーの掟」と呼ばれる決まり事。それはそのまま彼女との盟約なのだ。表の掟は三つだけだが、実際にはもう少しある。
パーティーに参加できるように、死者の魂に肉体を与えること。
ハロウィンパーティーの会場は冥界が用意すること。その代わり地上は冥界がその役割を果たせるように冥界に供物を捧げること。

死者は生者に危害を加えないこと。

大抵はハロウィンパーティーを純粋に楽しみたいものたちだ。そんな魂は数回パーティーを楽しんだ後は満足して眠りにつき、記憶や思いを手放して、また地上に新たな命として生まれてくる。
しかし、生前に心残りがあるものは生者を利用して自身の無念を晴らそうとする。生者を冥界に引き込んで死者にしてしまう愉快犯もいなくはない。
そういうものたちはずっと冥界に留まったまま、必然的にそういうものたちの比率がじわじわと上がってしまう。冥界が慢性的に抱える問題の一つだ。

「女王陛下ー!」
半透明の小さなゴーストが壁をすり抜けて飛び込んできた。
「嘆キノ川跡デ不穏ナ動キ有リ!不穏ナ動キ有リ!」
高い声で叫びながらビュンビュンと部屋の中を飛び回る。
女王はうんざりとした顔をつくり、飛び回るゴーストを手で払った。
「分かったから詳細を報告しなさいよ。」
払われたゴーストは一度空気に溶け、静かになった。が、すぐに形を取り戻す。
「報告ニヨルト、武器ヲ持ッタ数人ガ集会ヲシテイタ、ト!」
「……いつもならただの厨二病患者の集会だけど、このタイミングだと確認する必要があるわね……」
冥界には何らかの念、つまり魔力を宿した古いものも流れ着く。古い文字で書かれた書物、大切にされてきたであろうアクセサリー、幾人の血を吸ってきた武具。
厨二病罹患者たちにとっては垂涎ものの品々が、割とその辺に転がっているのだ。うっかり拾ってしまって、取り憑かれることもままあることだ。
普段なら放っておけばそのうち解散するが、今のタイミングでは生者に危害を加える可能性がある。武器は取り上げておかなければならない。
「忙しいのに……仕方ないわね」
軽く身だしなみを整え、女王はふわりと浮かび上がる。窓を開け放つと、ふと人形に向かって振り返る。
「あなたはホールの手伝いにいってあげて。またサボっていたらぶん殴っても構わないわ」
こくんと頷くと、人形はててと走っていった。それを確認すると、女王は冥界の空へ飛び出す。

冥界はいつも薄暗い。頭上には地面があるのだから当然だ。しかし、下を見ればにぎやかな町並みが広がっていた。
魂を休める場所として機能させるために、地上から様々なものが供物として捧げられる。食べ物や装飾品、レンガや布まで。それはこうやって冥界の住人の暮らしを豊かにするために使われる。
盟約を結んで数年、今では立派な町になるまでになった。薄暗い冥界でも、町の中は明るい。

冥界は恐ろしい場所。事実昔はそうだった。この地は死した魂を無尽蔵に引き寄せ、集め、己の一部として吸収する。吸収された魂は二度と元の形に戻ることはなく、この地に命が宿ることももちろんない。荒れ果てた無の大地。
この地底にそんなものを生み出した術も人々もとうの昔に魔力の沼に食われてしまった。
この力、システムを成立させるためだけに生み出された存在をたった一人残して。

そんな呪われた場所にどうして国を作ろうと思ったのか。そう聞いたときの返事を思い浮かべて、女王は口元をほころばせる。
「さて、とっとと解決して仕上げをしなくちゃ」
機嫌を直した彼女は自由に冥界の空を泳ぐ。
最初はただ、押し付けられたと思った。不毛になることを強いられた土地。 命を溶かす呪われた地。それが魂を受け入れ、安らぎを与えられる町になるなんて。
それでこそ、この私にふさわしい。冥界で一番の力を持つ怨霊は満足げに笑った。


嘆きの川。物騒な名前にはきちんとした理由がある。昔このくぼみには地の底から溢れだした魔力がまるで川のように流れていた。それはまた地の底に引き寄せられて流れては戻るという終わりのない濁流を作っていた。
そんなものに飲み込まれてしまえば二度と抜け出すことはできない。いつか魂の形がなくなり、自我がなくなるまで、己の運命を嘆き続けることになる。そんな恐ろしい川があったのだ。

それも今は昔。
強大な魔力は地上の城が大きな楔となって封印され、冥界に満ちる魔力は女王によって厳格に調整されている。
川と呼ばれるほどの魔力の濁流はなりを潜め、今では巨大な跡地を残すのみとなった。

そんないわく付きの場所で、三人のすこん部たちはヒソヒソ声で話していた。
「ふふふ……まさか嘆きの川の崖の縁に武器をくくり付けてあったとは誰も思うまい!」
ホッケーマスクを被り、ジャケットを着用したすこん部は槍に頬擦りしながら笑う。
「よくやっタ!家に隠してあった分は取り上げられてしまったからナ」
二本の角を生やした悪魔のような風体のすこん部がホッケーマスクの肩を叩く。
「これで遂行できる、我々の計画が!」
不気味なピエロのメイクをしたすこん部がケタケタと、また気味の悪い笑い声をあげる。
そう、用意周到な計画だ。生者を冥界に引きずり込むための素晴らしい計画!
冥界の武器を使い、身体から魂を引き抜いてしまえばもう地上へは帰れない。
別にいいじゃないか!いつかはここに来るのだし、それが少し早くなるだけのこと。それに我々はもうオバケとなったのだから、少しぐらい生者を怖がらせてみたい。
ただ平和なパーティーだけなんてつまらない!スリルと恐怖だってハロウィンの醍醐味だろう。
「ふふふ、これで冥界の住人が、我々の仲間が増える!」
「地上では生きるために頑張ることがたくさん!でもここにいればそんな事もしなくてもイイ!」
「ウィンウィンの関係というやつだ、お互いにとって!」
えいえいおー!武器を振り上げ、やる気は十分。後はパーティーの開始まで会場近くに隠れて機会を伺っていればいい。
この時間帯はお城のパーティーホールの飾り付けで大忙しだ。警戒しなくても道中にも人なんていやしない。我々のようによからぬことを考えている連中でなければ。
の、はずだった。
「むむっ、むむむム……!」
悪魔すこん部が目を細める。よーく、よーく目を凝らしてみれば。ほとんど薄く透明になったゴーストが、少し向こうで自分たちの方を見ていた。
「ゴーストだ!女王直属の部下たちダ!」
「なんだと!」
彼らは慌てて武器を隠そうとする。
直属の部下たちは、何でもすり抜ける特殊な造りをしているとは知っていた。が、周囲にほぼ同化できるまで透明になれるなんて聞いていない!彼らが見ているということはすでに女王に知られていると思ったほうがいい。
「急げ!厄介だ、証拠を押さえられたら!」

「なぁにが厄介ですって?」

薄暗い世界。それでも明確な影は落ちる。しっかりとした威圧感を放ちながら彼女は三人の頭上に浮かんでいた。
「この忙しいときに私の手を煩わせるなんて、いい度胸ね」
普通に聞けば高めで可愛らしい声。しかし地の底から這い上がるような怒気が含まれているのは気の所為ではない。
三人は縮み上がり、その場に武器を取り落とす。カランカランと大きめの音が響くが、それでも彼らは固まったまま動かない。
「どうしてやろうかしら。年に一度のパーティーを台無しにしようとした罰として、深淵に放り込んでやろうかしらね?」
『それだけはご勘弁を!』
声を揃えて三人は乞う。
深淵。この世界の深淵とはつまり、封印された魔力たまりのこと。それに放り込まれるということは荒れ狂う力の中で自我を砕かれ、二度と形を取り戻すことはないということ。冥界で一番恐ろしいことだ。
可哀想にブルブルと震え上がる三人を見て、女王は大きくため息をつく。
「バレて良かったわね。被害が出ていたら本当に放り込むところだったわ」
「えっ……それじゃあ……」
「城内の掃除を半年間で許してあげるわ」
あの大きなお城の掃除を半年も……?と一瞬固まった三人だったが、第二の死を免れたのだ。大きく跳びはねて喜んだ。
「ありがとうございます!お情けをいただきまして!」
「もう二度といたしまセン!」
「ふふふ……、こうなったら城中をピカピカにしてやる……」
ワイワイと女王を称える言葉を叫ぶ三人に、女王はふと尋ねた。
「大体、なんでこんな馬鹿なことを?」
三人はふっと静かに上げていた手を下ろした。
「……オバケらしいことをしてみたくて……」
「遊んでいたかった、ずっとずっと!」
「でも本当ハ……」
生きるためには様々なことをしなければならない。食べること、食べるために働くこと、眠ること。精神的な健康を保つためには趣味や娯楽だって必要だ。
生きているうちは大変だ。やらなければ死んでしまうのだから。
けれど、いざ死んですべてやらなくて良いとなれば、今まで生きるために使っていた時間がポッカリと空いてしまう。趣味や娯楽に興じても、それだけで全ての時間を潰すのは難しい。それはやっぱりなんだかさみしいのだ。
「生きている者たちが羨ましくテ……」
そう思ってしまう程度には。
「……そう、そう思わせてしまったのは統治者の私のせいね」
まだまだ冥界にはできることが少ない。いくら供物として様々なものが提供されるようになろうとも、地上のようにはいかない。
食事も娯楽も何気ない日々の暮らしも、魂を癒すものとして必要なのだ。
残念ながら、癒やされない寂しさや暗い思いを抱えすぎた結果、転生できなくなるまで壊れてしまう魂もまだ存在する。
「けれど、これから冥界はもっと良くなるわ」
三人に力強く女王は語りかける。
「今回のパーティーは特に力を入れているの。もっと冥界のことを知ってもらうために、いつもより多くの生者を招待したの」
そう、生前の後悔を癒やすために『楽しいお祭り』は効果的なのだ。時間を忘れて楽しいことだけに集中できる素晴らしい機会なのだから。
女王は地面に降り立ち、しゃがんで三人に視線を合わせる。
「私がきっとあなたたちが眠るにふさわしいと思えるだけの場所にしてみせるから」
三人はお互いの顔を見合わせてコクリと頷いた。
「でも、生者たちはパーティーが終わったら帰ってしまうだろう?」
「さみしい、それはやっぱり」
「ずっとここにいればいいじゃないカ。ずっとお祭りを続けようヨ!」
「無理やりは良くないわ」
そう諭されてしまえば三人はうなだれるしかなかった。

「だから、甘い夢を見せてあげましょう」

女王はにっこりと美しく笑う。
「自分からここに居たくなるような、そんな優しくて楽しい夢を」
そう、一人がさみしいなら人を集め続けられるようなシステムを生み出せばいい。それが彼女に埋め込まれた彼女の本質だ。
盛大に楽しいパーティーをして、優しく親切に接すれば冥界はいいところだと思って帰りたくなくなる者が出るかもしれない。
無理やり囲ったところで反感を買うだけだ。盟約の条項違反にもなってしまうし。
だから、親切と居心地の良さと愛で繋ぐのだ。
「さ、楽しいパーティーの準備をしましょう。一人でも多くの者を夢に落とすために」
『イエスマム!』
今度こそ勢いよく頷いて、三人は城に向かって走り出した。それを見届けた女王はゆっくりと立ち上がった。
「さ、私も最後の仕上げをしなくっちゃ」
ゆっくりと彼女は上を見上げ、笑う。
かつて冥界に引き込んだ魂を思い浮かべて満足そうに。
「愛してあげるわ。私の愛を享受し続ける限り、存在を許してあげる。」
ドレスに付いた土を払う。
「歓迎するわ、地上の魂たち。どうか楽しんでいってね」
ふわりと飛び上がった女王はゆったりと城の方向へと飛び去る。
お菓子の甘い香りを残して、彼女は薄暗い空へと溶けていった。

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