FBKINGDOM STORY
EP3-2 城下町での新生活
原案:白上 フブキ 執筆:茅埜 仁子
翌朝。
しっかりと朝ご飯までごちそうになり、僕らはさっそく家探しに出発することにした。
「図書館で空き物件を紹介してもらうこともできるが、どうする?」
「うーんそうだなぁ」
確かに、それが一番早いだろう。でも、せっかくだからいろんな物件を自分の目で見てみたい。
「自分で選ぶことはできるの?」
「もちろん。後で申請すれば大丈夫だ」
「それなら、自分で見て回りたい!」
これからこの国に住むのだ。土地勘も欲しいし、家の周りの風景も気になる。
となれば探検だ!僕の尻尾は新生活への期待でブンブンと勝手に揺れていた。
「了解!じゃあ行こう!」
「案内してくれるの?」
「当たり前だろ」
彼は鼻の下をこすりながら笑う。
「キミんちはしょっちゅう遊びに行くことになりそうだしな!」
「それもそうかも」
僕は口に手を当てて笑った。友人と何気ない会話をし、自分の明日を自分で創り固めていく楽しさといったら。ふふふっと漏れた声を手で押さえ、僕らは街へと繰り出した。
昨夜、彼の話を聞いていたからか、街の様子がよく目に入るようになった。
何度か見たことのある、商店街の向こうの大きな建物。あれがきっとファクトリーだ。確かに四角い大きな建物に煙突が何本もにょきっと生えている。時々煙を吐き出しながら、あそこでは何が作られているのか。そして、どんな人たちが働いているのだろう。
反対側、図書館がある通りでは賑やかな音楽が聞こえてくる。ギラギラとした照明に照らされた巨大なCASINOの文字。時折、チャリンチャリーンと小気味のよい金属音が聞こえてくる。ギャンブルと聞くと少し怖いが、きらびやかな建物だけを見れば楽しそうな気もしてくる。
そんな魅惑の建物からえいやと目をそらせば、広場が目に入る。お城へと続く階段を見ると、昨日は気づかなかった小ぶりな小屋があった。槍を持ったすこん部が、二人ずつ出入りしている。もしかして、あれが詰所なのかもしれない。
彼の話からすれば彼らは厳しい試験を突破した精鋭であるという。門番の姿からは想像もつかなかったが、他の騎士さんはまた雰囲気が違うのだろうか。
「⋯⋯ーい。おーい」
「っは!」
急に耳元で聞こえた声にびっくりして振り返る。
「メインストリートに入った途端キョロキョロしてよ」
「あ、ごめん⋯⋯」
「いや、いいんだけどさ。このペースじゃ今日中に決まらねぇぞ?」
そうだった。今の目的は自分の家探し!まだまだ魅力的な場所はあるのだろうが、まずはそっちに集中せねば。
「そうだね、ありがとう」
「いいってことよ」
住宅街のほうへと視線を戻す。大きな通りに面した建物は一階が何かしらの店舗、2階からが住宅のマンションタイプが多いようだ。もちろん一軒家もある。庭で体操をしているすこん部をみていると、お庭があるのも素敵だと思えてくる。自分ならお野菜を育てるだろうか。
街全体にどこか穏やかな時間が流れている。これが、自分にとっても日常になっていくのだと思うと、なんとも心が温かくなる。
僕は雑音に紛れる自分と彼の足音を楽しみながら歩いていた。
キョロキョロと建物を眺めながら住宅街を歩いていると、連なっていた屋根が急に消えた。――慌てて視線を下ろすと、見えたのは茶色い⋯⋯ダンボール?
「見よ、この耐久度を!」
「いいや、雨にさえ弱い紙本来の儚さこそ⋯⋯」
「ペンキを使って派手派手に!」
「ダンボールとガムテープとペン以外の素材はレギュレーション違反だろ!」
やいのやいのと、何人ものすこん部が言い合いをしている。
「あぁ、説明してなかったな」
彼がずい、と前に進み出る。
「ここD地区って言って、ここでは自由にダンボールで家を建てられるんだ」
「えぇ!? 自分で家を?」
「そう。元々はここも都市開発対象地域だったんだが、何人かのすこん部がダンボールで家を作り始めてな」
ダンボールで⋯⋯?ぽかんと口をあけたままの僕をおいて、彼は説明を続ける。
「そのダンボールハウスがなかなかに出来がよかったものだから、後に続くすこん部が次々と現れてよ」
彼は視線で議論を白熱させる彼らを指す。
「結果、ここは地区と呼ばれるまでに成長して今に至るってわけさ」
「へぇ~⋯⋯。そういうものもあるんだね⋯⋯」
自由な国風がなせることなのか、それにしても自由すぎやしないか。混乱する僕に気づいたのか、D地区のすこん部たちがこちらを見る。
「む、見ねぇ顔だな」
「新入りか?」
「ようこそD地区へ!」
わやわやと集まった彼らは僕たちを取り囲み、珍しそうにしげしげと眺めていた。
「わ、わ。はじめまして⋯⋯」
「よう、久しぶり」
「おぉ!カジノ以来じゃねぇか」
彼は親しげにD地区のすこん部たちへ声をかける。顔が広いんだなぁと、少し嬉しく思う。
「最近どうよ?儲かってるか」
「いや、最近はめっきり行ってないよ」
「ははぁ、流石に上限までつっこんだんだから懲りたんだろう?」
⋯⋯やっぱり、行ってたんじゃないか。横目で彼をじろりと見やる。それに気づいた彼は気まずそうに目をそらした。
「そ、そんなことより、こいつ新参のすこん部なんだ。ここのこと教えてやってくれよ」
話題をそらすダシにされた気がしなくもない。が、人脈が広がるのは素直に嬉しい。押される背中の勢いに、人の輪の中心へ進み出る。
「そうかそうか!まぁここにゃダンボールしかないけどよ。ゆっくりしていきな!」
豪快にそう言うとがっしりと僕の肩をつかむ。
「それともダンボールハウスに興味があるか?俺たちゃ同志を歓迎するぜ」
「あ、あはは⋯⋯えっと⋯⋯」
興味はなくはないが、実際に住むとなるとダンボールの耐久度では少し不安だ。返答に困っていると、「まぁまぁ」と彼がやんわりと距離を開けてくれた。
「改めて紹介するよ。この人はここいらの代表やってる人で、通称親方って呼ばれてんだ」「てやんでぇ。新人の面倒みてたらよ、いつのまにかそう呼ばれるようになっちまっただけでい」
「親方……!」
「おうよ」
親方は腕を組んで、ニカッと笑う。
「この人、こう見えて本職で大工なんだぜ」
「えぇ!?」
大工ということは家を作る人ということだ。ダンボールではなく、建材をつかった家を。
「だったら――」
「おっと、なんでダンボールハウスなんかを、なんて野暮なこと聞くんじゃねぇぞ」
先回りされてしまった。きゅっと口をつぐむ。けれど、どうしても気になってむずむずしていると、親方は大きくため息をついた。
「俺は職人として誇りを持って仕事してらぁ。この国を作る仕事だ、嫌でも背筋がしゃんとする。けどよ、職人ってのはきちんと修行が必要だ。危険もつきまとう」
親方の目が遠くを見つめる。
「ものを作るってのはなんでも大変な仕事だ。だからこそ、最初の一歩はなるべく楽しいものであってほしい。気軽に初めて、作る楽しみを十分に味わって。それから極めることを目指してもらえりゃ、こんなに嬉しいことはねぇ」
街並みを思い出す。美しく統一された建築物。そうだ、急に街が現れるわけではない。地道に一つ一つ、作られている。彼らの手で。当たり前のことだけど、当たり前すぎてついつい忘れてしまう。
「だから、気軽に始められるようにダンボールで作り始めたんだ。まぁ、こんなに大きくなるたぁ思わなかったけどな!」
ガハハと笑う親方は、とても嬉しそうに目を細めていた。
「D地区はDream地区だ。ここは自由に己の作りたいものを作れる地区!土地の許す限り、作りまくるんでぃ」
「ふふ、親方の夢が詰まった地区なんだね」
「俺だけじゃねぇ、みんなの夢よ」
切って、貼って、組み立てて。作ってる最中の人も、作り上げたものを眺める人も。みんな楽しさが全身からあふれていた。ただ楽しむ人も、そこから新たな道を見つける人もそれぞれいるのだろう。本当に人それぞれ、すこん部それぞれだ。でもそれがいいのだろう。
ふと思う。僕は何がしたいんだろう。
ここに来て、まだ少しだけれど、さまざまなすこん部を見てきた。みんな思い思いに生きている。 僕は――。
「なぁ親方、親方が建てた家で空きがあるところはねぇか?」
「ん、別にここで暮らしたっていいんだぜ?」
「初心者がいきなりダンボールはハードルが高いだろ。それに、ダンボールハウスだけってのは禁止じゃなかったか?」
「あぁ、司書さんに叱られてな……。一応非常時の避難所的な扱いでマンションもあるよ」
「こいつにはまず生活の基盤を整えてほしいんだよ」
「そうだなぁ……そしたらよ――」
ドアを開ける。
中央通りに面した、1階には喫茶店と雑貨屋がある小粋なマンション。213号室。まだ最低限の家電しかない、僕の家。
通りに面した窓を開ける。すぐ下には喫茶店のキャノピーが見える。
彼の家からもほど近く、便利のよい物件だ。彼も気に入っていたようだったし。
「うん、新生活って感じだな!楽しめよ」
彼は支給された家電を運ぶのを手伝ってから、そう言って帰っていった。
障害物のない家の中を、勢いよく風が吹き抜ける。西に傾いたお日様はゆっくりと赤く染まっていくことだろう。
あぁ、僕だけの空間だ。ほっぺに力が入る。家具は少しずつそろえていこう。カーテンと布団だけ買いに行こう。あと、今日のご飯も。
住居登録の際にもらった新生活手当の入った袋を尻尾にしまう。
僕は再び、街へ出る。帰る場所があるっていいものだ。
そうだ、明日は僕一人で出かけてみよう。今日回りきれなかったところに行ってみるのがいいだろう。さて、どこへ行こうか。そう思いを巡らせながら、僕は石畳をスキップで駆け抜けた。