FBKINGDOM STORY
EP4-1 目指せ!Big Dream?
原案:白上 フブキ 執筆:茅埜 仁子
シャクッ。
「はぁ~⋯⋯、おいしい⋯⋯」
真っ赤な林檎を皮ごと食べる。昨日買ったばかりのそれは、歯を立てた瞬間に果汁が口内に広がるほどみずみずしい。寝起きの体に染み渡る。
「さて、今日はどこへ行こうかな」
気になるところは盛りだくさんだ。なんといってもまだ図書館やD地区しかまともに見て回っていないのだから。
「やっぱり、商店街かなぁ」
昨日も行ったけれど、やっぱりこれから生活していくのだからライフラインは確認しておきたい。そろえる家具も十分に下見をして選んでいきたいし、おいしそうな食材もたくさんあったはず!
「やりたいことがたくさん、たくさんあるなぁ」
焦るほどたくさんの夢があるのも嬉しいことだ。けれど焦らず一つずつ。
昨日買ったノートを取り出す。空色に金木犀の花が箔押しされた分厚いノート。布団とカーテンを買った帰り道、本屋で一目惚れをして買ったもの。
ページを開く。昨日の出来事が描かれた2ページ目。
1ページ目にはまだ何も書いていない。
「日記⋯⋯?でも、もっといろいろ書きたいし、⋯⋯雑記?」
自分の記憶は空の色と金木犀から始まっている。それからあっという間の濃い、濃い時間を過ごした。記憶のなかった自分にとっては初めての、幸せで、楽しい思い出だ。どうして記憶がなかったのかわからない以上、また記憶を失うかもしれないと思うと少し怖い。だから日記を書こうと思ったのだけれど⋯⋯。
「ふふ、楽しかったな」
2ページ目を読み返して口元がほころぶ。
やっぱり“怖いから書く”んじゃなくて、“楽しかったから書く”ことにしよう。もし、自分がまた忘れてしまったとしても、このノートがまた僕に教えてくれるから。
「それじゃあ⋯⋯」
初めての景色によく似たこのノートを夢や思い出をしまっておく宝箱にしよう、そう決めた。
― FBKINGDOM STORY ―
1ページ目にそう書き足して、ページを閉じる。
「さて!」
朝ごはんも食べ終わった。今日のページを重ねにいくことにしよう。
「いってきます!」
玄関から外に出て、階段を降りるとそのまま大通りに通じる。とても便利な物件を紹介してもらったなぁとしみじみ思う。しかも1階は喫茶店になっているときた。親方の顔を思い浮かべながら手を合わせる。ありがとう、親方。こんなにいい家をつくってくれて。
喫茶店にはまた今度お邪魔させてもらうとして。
「えっと、それで商店街は⋯⋯」
昨日辿った道のりだ。迷うことはない。今日もにぎやかな街をポテポテと歩く。
「それで昨日王様がねー、しばらくみんな気をつけるようにって」
「えー?めずらしいね」
「不思議な力?が観測されてるんだって」
僕がD地区に行っている間に何かあったのか?振り返るも、そう話しているすこん部たちは不安な様子もなくのんびりと歩き去っていく。大したことではないのかな、また彼に会ったときにでも聞いてみよう。
広場にたどり着く。ここを右に曲がればいいと思ったその時だ。
噂をすればなんとやら、遠巻きに彼の姿を見つけた。
「あ⋯⋯」
今日は一人で周る予定だったけど、せっかく会えたのに声をかけないのは少し悪い気がする。そうこうしているうちに、彼は早歩きで商店街とは逆の方向に歩いていく。どこへ向かっているんだろう。なんとなく目で追っていると、彼は図書館の前を通り過ぎてとある建物の前で立ち止まった。
チャリーン!という小気味よい音。そう、CASINOの看板がかかった建物の前で。
「さっそく行ってるじゃん!」
思わず走り出す。無謀な賭け事なら止めなければ。
「待って――!」
そう叫ぼうとした時、カジノの扉が開く。中から現れたのは司書さんのように僕たちとは少し姿の違う人だった。ワインレッドの髪をポニーテールにして、狐耳のカチューシャをつけたメガネの女性。彼女は彼を見るとニヤリと笑ってこういった。
「よーぅ、ロイ。久しぶりだなぁ?」
ロイ?首を傾げて彼を見る。彼はうれしそうにバツの悪そうな顔を作る。
「語呂合わせのあだ名で呼ぶなよ。別にいいけどな」
「あたしゃ良い賭けっぷりの客はよーく憶えてんだ。掛け金は用意できたのかい?」
「おうよ、リベンジだ!今日こそは勝ってやるからな!」
彼女は大きく手を打ち鳴らす。
「ハハ!いいぜ、受けて立ってやるよ」
物騒なのか熱血なのかよくわからないやり取りに気を取られて、完全にタイミングを失ってしまった。どうしようか迷っていると急に彼女と目が合う。
「ところでそいつは知り合いかい?」
飛び上がった僕とギョッとした表情の彼の視線が交わった。
「どうしてこんなところに!?」
「い、いや、えっと⋯⋯。さっき広場で見かけて⋯⋯」
カジノ施設の関係者?の前でギャンブルを止めに来たとも言えず口ごもる。その間に彼が彼女に僕を紹介してくれた。
「はぁ~。初心者で記憶喪失か!大変だなぁそりゃ」
「それがこいつなかなかたくましくてさ」
「そんな事ないですよ!お家が見つかって一安心はしましたけど⋯⋯」
「へぇ~⋯⋯、じゃあギャンブルもしたことないのか⋯⋯」
彼女のメガネの奥の目が鋭く光る。
「そりゃあ楽しさを教えてやらなきゃなぁ?」
がっし、と両肩をつかまれる。そのままヒョイと体が宙に浮く。
「え?」
「お、やってみるか!はじめはルーレットとかどうだ?」
「え?」
彼女はスラリと身長が高く、持ち上げられてしまえば当然足がつくわけもない。虚しくも足がパタパタと泳ぐ。
「ハーイ!2名様ごあんなーい!」
「わぁぁぁ!おろしてーー!!」
ノリノリの彼と彼女は二人だけで盛り上がっていて、僕の話は聞いていない!そのまま連れ去られるように僕はカジノへ入店することになったのだ。
「さぁて、ここでのルールを説明するぞ?」
「⋯⋯ハイ」
コインの転がる音、ド派手な効果音、区画ごとに違うBGM!椅子が備え付けられた機械や、天井や何かのボードには、あらゆるところに電球が配置されてビカビカと点滅している。音と光と情報の濁流だ。とりあえず飲み込まないと、どうにかなってしまう。そう判断した僕は素直に講義を受けることにした。
「ココはしっかりと管理されてるカジノだ!みんなで楽しくワイワイ遊んで、ついでに王様も楽しい素敵な施設!無理な賭けは禁止されてるからな、あたしらも止めるがちゃんと自分でも止まるんだぞ」
チラと彼を見ると目をそらされた。
「1コーンで1コインと交換できる、このコインを賭けて遊ぶんだ。当たり前だが、このコインはカジノ内でしか使えないからな」
そう言って彼女は実物のコインを見せてくれた。しましまの模様がついていておもちゃみたいに感じる。
「初来店にはサービスで3,000コインをプレゼントするぞ。それ以上は自分で交換してくれ。月に交換できる上限は50,000コインだから注意しろよ」
「あ、ありがとうございます」
袋に入ったカジノコインを受け取る。ずっしり重たい。こんなにもらえるなら、自分で交換しなくてもかなり遊べそうだ。
「後で選んでもらうが、ここにはたくさんのゲームがそろってる。そいつにこのコインを賭けて、自分のコインを増やすんだ。コインの数は把握してるからな、毎月ボードにランキングされるんだ」
「ちなみにランキング上位者には豪華景品があるんだぜ!大体はカジノ限定品だからここでしかゲットできないレアアイテムなんだ」
「え!」
なるほど、それは欲しい!賭け事は漠然と怖いと思っていたけれど、楽しめるようにいろいろと整備されているんだと感心する。
「毎月のランキングはリセットされるがコインは持ち越しだ。手持ちが増えれば増えるほど有利になる。だから、どこまで賭けて、どこまで残すかの駆け引きも大事になるから覚えておけよ」
「奥が深いんですね……!」
「だがしかーし!」
ニヤリと笑った彼女はまた大きく手を打つ。
「そんなちまちました駆け引きよりも、あたしゃこっちをオススメするぜ!」
彼女は腰に手を当てて拳を上げ、親指と人差し指を伸ばす。
「毎月7日はラッキーチャンス!なんとコインバックが倍になるぜ!記念日には5倍!王様の生誕日には10倍だ!」
「そんなに!?」
「あぁ、一晩でランキングがガラッと変わるのも珍しくないんだ」
なんだろう、そんな夢にあふれた話を聞いているとワクワクしてきてしまうじゃないか!
「さぁ、ルールはわかったな?」
「はい!」
「そんじゃ、今更だがご挨拶させてもらおうかね」
彼女は左手を背中に回して、右手を胸に当て、軽く片足を引きながら優雅にお辞儀をしてくれた。
「あたしの名前はフォルト。このカジノのディーラーさ。遊びのことなら何でもござれ。ときにはゲームマスターとして、ときには同じプレイヤーとして、ビッグなドリームをともに追いかける同士として、よろしくな?」
「はい!よろしくお願いします、ディーラーさん!」
「良い返事だ!そんじゃさっそくゲームスタートといこうじゃねぇの」
「初めはなんのゲームにするんだ?スロットとかルーレットとか直感でできるやつがおすすめだけどよ!」
「えっと、それってどうやって遊ぶんですか?」
「ふふん。初心者はこれだからよぉ、みっちり教えてやろうじゃねぇのぉ」
なんだかまた流されているような気がしなくもないが、少しだけ、少しだけ遊ぶなら問題ないはず!二人に連れられて、今度は自分の足でそれぞれのゲームコーナーへと歩き出したのだ。