FBKINGDOM STORY
EP4-2 目指せ!Big Dream?
原案:白上 フブキ 執筆:茅埜 仁子
一歩進むごとにどこかでけたたましい音がする。これが当たりを告げる音なのか、それとも外れてしまったのか。
まったく何が起きているのかはわからない。けれど、派手な光の演出と大きな音がほんの少し残る焦燥をワクワクへと変えていく。スリルの鼓動が高鳴りへと変わっていく。
「よし、まずはここだ」
彼とディーラーさんが同時に立ち止まる。あわてて自分もたたらをふんで立ち止まる。
目の前には高い椅子がいくつも備えられた、大きな黒と金の装飾が施された台が鎮座していた。椅子の上に登らなければ、台の上は見えないほどだ。
「俺はこの席な!」
彼は慣れた様子でするりと椅子に座った。
「隣に来いよ! 俺の運を分けてやる!」
早くも勝つ気満々、自信満々の彼にふふと笑みがこぼれる。
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
彼の隣の席へよじ登り、暗めの上品な赤色のクッションにお尻を預けた。
台には巨大なルーレットと、それに対応した数字が描かれたスペースがある。ツヤツヤとした木枠に赤と黒、そして緑の数字が書かれたポケットがある。中心の金具は鈍い金色に輝いていて、これはオトナな遊びなのだと語っているようだった。
ぴょこと一人のすこん部が正面に現れる。
「このゲームのディーラーを務めます。よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします!」
少し緊張が戻ってしまった僕に、ディーラーすこん部は優しく微笑みかける。
「初めての方もいらっしゃるようなので簡単なルール説明からいたします」
彼は一瞬ディーラー、フォルトさんの方を確認してから続ける。
「ルーレットは私、ディーラーが回転する盤面に投げ入れたボールが、どの数字に入るのかを予想するゲームです」
ポムとルーレットの木枠を撫でて彼は続ける。
「私がウィール、数字の描かれた部分ですね、その回転方向とは逆方向にボールを投げ入れます。そして、『プレイスユアベット』と宣言しますので、それからこちらのベッティングエリアにコインを好きな場所へ置いてください」
なるほど。この数字の書かれたエリアの、自分が予想した数字のエリアにコインを置くということか。
「えっと、それは一個ですか?」
「『ノーモアベット』、と宣言するまでコインの許す限り自由に賭けていただいてかまいませんよ」
ただ数字だけでなく、赤と黒だけのところや、文字が書かれているところなど様々で、どうやらたくさん賭け方があるようだ。一見わかりやすく感じるけれど、かなり幅広いゲーム性なのでは……?
「そんじゃ、詳しい賭け方についてだが……と、言いたい所だが」
僕の隣にドカリと座ったディーラーさんが笑う。
「人生で最初のギャンブルだ。まどろっこしいルールや駆け引きなんざ抜きでいい。ドキドキのストレートアップ! 好きな数字の真上にコインを置いてみな!」
「ストレートアップは当たればもちろん一番倍率が高いぜ! なんと35倍だ!」
「さ、35倍!?」
と、いうことは……、もし100コインをストレートアップで賭けていて、当たれば……。
「配当金は3,500コイン……、合計3,600コイン戻ってくるってわけよ」
「3,600コイン……って、3,600コイン!?」
ニヤリとディーラーさんと彼は笑う。
ごくりと無意識に喉が動く。漠然としたビッグチャンス、それが実感と現実感をもって今僕の手の中にある。このコインはもしかしたら、本当にビッグなドリームに化けるかもしれないのだ。
「それでは参ります。……『プレイスユアベット』!」
投げられたボールはカララと音を立てながら勢いよく回転する。赤黒白、くるくると回転する色に目を回している間に、ボールの勢いはみるみるうちに落ちていく。
迷ってる暇はない。握りしめたコインとともに身を乗り出す。
「……よし、決めた! ここに100コイン!」
僕は意を決して、直感で選んだ数字『5』の真上にコインを置いた。
「へぇ、そこかい。いいねぇ!」
「じゃあ俺はココとココ! 同じく100コインずつだ!」
「アタシはココ、300コインだ!」
「――『ノーモアベット』。そこまでです」
カラカラカラ……と音の感覚が広くなる度、喧騒が遠くなっていく。小さな球が数字の溝を跳ねるたび、僕の心臓も一緒に跳ねた。
カラン、と音を立ててボールが静止した。
「……当選番号は、こちらです」
「あ」
瞬きをする。
景色は変わらない。
ボールが収まっていたのは、まさに僕がコインを置いたその数字。
「う、嘘……当たった……!?」
「うおおおおお!? マジかよお前!!」
「ハハハ! 一発目で仕留めるとは、とんでもないビギナーズラックだなぁ!」
じゃらじゃらじゃら! と、目の前に信じられない量のコインが積み上げられていく。
「こんなにいっぱい……すごい……」
受け取ったコインはずっしりと重く、胸の鼓動が収まらない。勝てるんだ……、本当に……!
「よぉし、もうひと勝負だ! 俺の運はこれから本番だからな!」
僕の勝利に火をつけられたのか、彼は拳を握りしめて次の勝負を宣言した。
それから、何回かゲームが繰り返された。少しずつディーラーさんに賭け方を教わりながら 、試すように赤黒、奇数偶数、スプリット……と賭け方を変えて、勝ったり負けたりをのんびり繰り返していた。
手持ちのコインはそこそこ増えて、5,000コインといったところ。ホクホクだ。
隣のディーラーさんも「あーあ、外れたよ」なんて言いながら、要所要所でしっかり当てていて、余裕の笑みを浮かべている。
……問題は、彼だった。
「おかしい……、なんで全部すり抜けるんだ……!?」
彼は、賭ける。そして、外れる。また賭ける。やっぱり、外れる。なぜか全てのボールが彼の予想の裏を突くように落ちていく。
「おいおいロイ、今日は一段と幸運の女神に嫌われてるなぁ?」
「うるさいぞ! 次だ、次こそは……!」
焦った彼の額に汗が滲む。手元のコイン袋は、最初はずっしりしていたはずなのに、今や見る影もなく萎んでしまっていた。
「……これが、これが最後のコイン……! ストレートアップだ!!」
彼は残ったすべてのコインを掴み、一つの数字の真上へと叩きつけた。全賭けだ。
「えぇ!? 大丈夫なの……?」
「見とけ……。ここでひっくり返すのが、男の生き様ってもんよ……!」
ディーラーすこん部が正確無比な手つきでウィールを回す。ボールが転がる。
ゴクリ、と全員が息を呑んだ。
――カラン。
「……あ」
無情にも、ボールは彼の賭けた数字の、ちょうど真隣のポケットへと吸い込まれていった。
「……なん、だと……」
ガクッ、と彼の膝から崩れ落ちる音がした。そのまま、椅子から滑り落ちるようにして床へ突っ伏し、ぴくりとも動かなくなってしまった。
「わぁ!? だ、大丈夫!? 」
あわてて床に飛び降り、彼の体を揺さぶる。けれど、彼は完全に燃え尽きた真っ白な灰のようになっていた。ショックのあまり意識を失ってしまったらしい。
「ど、どこかにお医者様はいらっしゃいませんかーっ!?」
本当にこのまま灰になって消えてしまいそうな彼を助けたい……! 僕が天に向かって叫んだ、その時だった。
「はぁい」
のっそりと、喧騒を割って一人の男性が現れた。
「誰!?」
顔にはお狐様の被り物をキッチリとかぶり、その下には仕立ての良い白衣を纏っている。どこか胡散臭……怪しげ……いや、なんともミステリアスな雰囲気を放つ人物だ。
「お、ちょうどいいところに。急患だよ、おサボり医院長サン」
ディーラーさんが親しげに片手を上げると、その医院長と呼ばれた男性は、のんびりとした口調で首を振った。
「おやおやぁ……、人聞きが悪いですねぇ。私はほんの少し、スキマ時間をぬって健全に遊んでいるだけなんですけれどねぇ……」
「い、医院長……、ってことはお医者さんなんですか……?」
不安げな僕のほうをくるりと振り返ると彼は両手を軽く広げてみせた。
「はぁい、私こそ国立病院、医院長です。 なにか不調の際は私を頼ってくださいね」
ゆっくりとした動作で彼は倒れてしまった彼に近づき、なにやら胸の音を聞いたり、目にライトを当てたり、耳の中を見たりしている。診察してくれているのであろうことはわかるけれど、心配でそわそわと周りをうろつく僕に先生は声をかけてくれる。
「さ、彼のことは私に任せてください。精神的ショックによる一時的な虚脱状態です。すぐに病院へ搬送して、適切な処置とお財布のケアをしましょう」
彼はひょいと、気絶した彼を軽々と抱え上げた。さすがはお医者様、頼りになる。
「ありがとうございます!」
「では救急車を呼んで……」
医院長先生は四角く黒い……無線機のような物を取り出して話し始める。
「カジノまで救急車の派遣をお願いできますか?……、えぇそうです、いつもの急患で……。え?事故で壊れた?……コラァー!! 」
そのまま医院長は彼を抱えたまま、足早にカジノを去っていってしまった。なんだか剣呑な単語がいくつか聞こえたが、まがりなりにも病院なのだからなんとかなる……と信じたい。
「ハハハ! 相変わらず愉快な先生だねぇ」
フォルトさんがカウンターに肘をつき、ニヤリと僕を見つめてくる。メガネの奥の瞳が、いたずらっぽく、そしてディーラーとしての鋭さを孕んで光った。
「さて、連れは運ばれちまったが……お前さん、いい賭けっぷりだなぁ? 初心者とは思えない引きの強さだ」
「え? いやぁ、たまたま運が良かっただけで……」
「たまたまでも何でも、勝ちは勝ちさ。……どうだい? せっかくのビギナーズラック、ここで終わらせるのも勿体ない。アタシと一対一(タイマン)で、本気の勝負をしてみねぇか?」
「ええっ!?」
ディーラーさんと一対一!? 驚いて一歩引こうとした僕の目に、床に残された、彼がさっきまで握りしめていた空っぽのコイン袋が映った。
……あんなに自信満々だったのに、無惨に運ばれていった彼。なんだか、このまま引き下がるのは、どこか悔しい。彼の無念を、ここで僕が晴らさなくてどうするんだ。
不思議な勇気が、胸の奥から湧き上がってくるのを感じる。
引こうとした足を、今度は一歩前に出す。
「……わかりました。やります」
「いい返事だ! そうこなくっちゃねぇ!」
フォルトさんが嬉しそうに指を鳴らすと、案内されたのは、真っ赤なテーブルクロスが美しく張られた小さなテーブル。
「次のゲームは『ブラックジャック』。カードの合計を『21』に近づけた方が勝ちの、シンプルなゲームさ」
そう言いながらも、手元でシャララとカードを自在に操る彼女はこの場を支配するのは自分であると誇示しているようだった。
「お前さんのその強運がどこまで通用するか……いざ勝負といこうじゃねぇの!」
二枚のカードが眼の前に配られる。
「通用するしないじゃない。勝つか負けるか、でしょう?」
カードを手に取る。真の勝負の、始まりだ。